みなくち子どもの森

「甲賀市レッドリスト2017」策定について

 甲賀市は森林など緑が豊富で、美しい河川が多く、都会と比較すると、自然環境の量は維持されています。しかし、野生の動植物の種類や数の変化に着目すると、現在の市内において、生物多様性が急速に減少し、生態系の劣化が進んでいるなど、自然環境の質の変化が確認できます。

 たとえば、”甲賀市の花”に指定されるササユリは、40~50年前までは、人家の裏山に、子どもが花束にするほど、普通に咲きました。裏山ではウサギやキジと出会うのが日常だったと聞きますが、最近はどうでしょう。古い記録や標本によって、ギフチョウやオオウラギンヒョウモンなど美しいチョウ類が市内から絶滅したことが判明しました。もっと最近の問題として、市内ではシカやイノシシが増えすぎ、人里まで降りてきて、農作物に甚大な被害を与えています。水辺では、外来種のオオクチバスやブルーギル、アメリカザリガニが群れて、ヤンマやイトトンボ、ミズスマシ、ゲンゴロウなど多様な水生昆虫の姿は少なくなりました。道路沿いでは、セイタカアワダチソウ、オオキンケイギクなど外来種の黄色い花が異様に増えており、こうしたことは全て、市内の自然環境の変質を示します。

 これら近年の変化の大部分は、私たち人間の自然環境への関わり方が大きく変化し、身近に生息する野生の動植物とのバランスが崩れたことで、さらに私たち人間にも影響が返ってきた状況と考えられます。

 そのため、レッドリストでは、急激に減少したり、絶滅の危険性が高まったりしている野生の動植物の種類について、現地調査や文献調査の結果からリストアップして、環境変化の 一つの指標とします。そして、どのような環境が劣化したのか、人間への影響がどのように現れてくるのか、今後の市内の自然環境を保全する指針作成の資料・根拠として、役立てることを目指します。

 環境省や滋賀県においてもレッドリストを策定していますが、各地域の自然環境の変化については、地域特有の現況を把握することが大切で、市域の調査を行うことにより具体的な対策につながります。

「甲賀市レッドリスト2017」策定方法

 「甲賀市レッドリスト2017」は、甲賀市独自のデータによる調査結果を基本として、策定しました。具体的には、市民らにより構成される、野生動植物の各分野の策定委員および協力者から、市内の野生動植物の生息情報を収集しています。これらの情報は、レッドリスト更新のために、改めて2017年に現地調査を実施したものも多く含まれますが、市の自然博物館である「みなくち子どもの森自然館」に、この5年以内に、市民らから寄せられた情報を有効に活用しました。

○  策定委員および現地調査・写真提供などの 協力者一覧 (PDF 131 KB)

 こうして収集した情報について、みなくち子どもの森自然館が事務局となり、リストを編集し、策定を行いました。

「甲賀市レッドリスト2017」主要な結果について

 甲賀市では、2007年に最初にレッドリストを策定し、今回の2017年版のリストは、2012年につづいて、第3回目の策定となります。2017年版の主要な調査結果について、分類別に以下に整理しました。詳細については、 甲賀市レッドリスト2017のリストと解説をご参照ください。

■「植物」では、 秋の七草に含まれるカワラナデシコ、キキョウ、オミナエシや、ワレモコウ、クサボケ、タヌキマメ、コシオガマ、スズサイコ、甲賀市の花ササユリなど、身近な里山の草地に生育する植物の減少がこの数年で加速していると判断しました。これは、市内の里山の管理において、「ほとんど手入れしない森林(雑木林、竹林、植林地)」と「生育を強く抑制する草地(除草剤なども利用して、草を芝生状に保持する)」の二極化が進み、年に1~3回程度の低い頻度の刈り払いを行う草地が減少したことが要因と考えられます。

 他には、市内に過去に生息したものの、近年は見られなくなったユウスゲ、スブタ、ヤナギスブタについて記載したほか、ハンカイソウ、イヌセンブリ、サイコクヒメコウホネ、オオヒキヨモギは市内で1カ所の確認もしくは今回未確認でした。

■「哺乳類」では、ノウサギを要注目種として新たにリストに入れました。特に、市内の丘陵地における分布が減少したと判断しました。また、これまで市内の山間部にアズマモグラが分布する可能性が高いと推定していましたが、市内の山間部で調査した結果、いずれも小型のコウベモグラのみが採集されたことから、アズマモグラをレッドリストから除外しました。国の特別天然記念物で、今回リストで絶滅危惧種に指定されたカモシカは、鈴鹿山脈の生息数が減少したとの報告があり、一方で、市内の低標高の里山で複数の個体が市民らに目撃されています。近年のシカの激増によって、 鈴鹿山脈の林床は、下草や低木が失われた植生となっており、カモシカの餌となる植物が山間部に乏しくなった可能性が指摘できます。

■「繁殖鳥類」では、市域で繁殖する鳥類を対象とします。今回のレッドリストでは、ヨタカ、ヒクイナ、バン、カイツブリのランクが上がりました。ヨタカの生息する明るい森林や草地の環境が減少し、里山域では分布記録が得られなくなりました。また、ヒクイナ、バン、カイツブリは池沼に生息する種類であり、こうした止水環境が劣化したと推察できます。そのほか、ノスリが初夏と初秋に相次いで記録されており、市内で繁殖している可能性が出てきました。

■「両生類」では、リストの種の変更はわずかでした。絶滅危惧種のオオサンショウウオはこの5年間の記録が得られていません。市内のヒキガエルの記録は、今のところ、亜種ニホンヒキガエルの記録であることが判明しました。市内の丘陵地帯には、樹林に囲まれた谷の水田(谷津田)が広がり、カスミサンショウウオやニホンアカガエルの生息環境として極めて好適な条件を保持しています。これら希少な里山の指標生物を保全することは、甲賀市の魅力的な里山景観を維持することにつながると考えられます。

■「爬虫類」についても、リストの種の変更はわずかでした。しかし、ニホンイシガメの生息状況が悪化したと考えられたことから、ランクを上げました。ニホンイシガメの幼体が観察されなくなったとの数例の報告があり、十分に繁殖ができない生息地が増えた可能性があります。ニホンイシガメは、池や川、水田などの水辺を移動して生活するとされることから、大規模な道路や水辺の護岸改修などにより、移動が困難になったことが減少要因の一つと推察されます。

■「魚類」では、絶滅危惧種のビワマスが2016年、2017年と野洲川を遡上するのが確認されています(それ以前の数十年の確実な記録がありませんでした)。また、市内のシマドジョウには、オオシマドジョウとニシシマドジョウの2種が含まれることが判明しました。ミナミメダカは、谷津田の水路などに小さな孤立した生息地が多く、小規模な水辺の改修や開発で絶滅しやすいことが確認されており、さらに飼育型のヒメダカが放流されたり、競合種となるカダヤシが確認されるなど、全体的に市域に固有な(遺伝子をもつ)ミナミメダカの存続に危険が高まったと判断しました。

■「昆虫類」では、コバネアオイトトンボ、タガメ、ゲンゴロウ、ギフチョウは長く記録が得られないことから、今回絶滅と判定しました。アオヤンマ 、ナガミズムシ、ケシゲンゴロウ、キベリクロヒメゲンゴロウなど水生昆虫類でランクが上がったものが多く、池や湿地、水田などの環境が昆虫類にとって不適な状況となったことが推察できます(水生昆虫類の掲載種は、32種(2007年)→59種(2012年)→83種(2017年)と顕著に増加)。また、市内の里山周辺でハンミョウを目撃しなくなったことから、新たにリストに掲載しています。農道やその法面などに固められた裸地が存在し難くなったことで、幼虫の生育場所が減少したと考えられます。

 

■「陸産貝類」では、絶滅危惧種のアズキガイ、クチマガリマイマイや絶滅危機増大種のミヤマヒダリマキマイマイなどについて種のランクの変更はありませんでした。しかし、今回の調査進行によって、ナタネキバサナギガイ、ウメムラシタラガイなど微小な種類についてリストアップしました。

 

■「淡水貝類」は、今回新たにリスト化することにした分類群です。市内に生息する淡水性の二枚貝、巻貝を調査した結果、8種類をレッドリストに掲載しました。大型の二枚貝では、里山の水路や池に生息するマツカサガイ、イシガイ、ドブガイ類が指定されました。また、市内の里山を中心にした水田域では、環境省や滋賀県でレッドリストに掲載されるマルタニシが比較的に多く観察されることから、市の「地域種」に指定しました。

 

■「その他の陸生無脊椎動物」についても、今回新たにリスト化することにしました。ミミズやムカデ、ヤスデ、クモ類など多様な分類群が含まれ、主に地表付近に生息する無脊椎動物から構成されます。これらの無脊椎動物については、情報が乏しい現状ですが、今回は、湖岸から離れた甲賀市内の水田でハッタミミズが発見されたこと、滋賀県で初めて市内の民家でヒトエグモが発見されたことなど、話題が多かったことから、レッドリストを作成することにしました。

 

 

「甲賀市レッドリスト2017」(レッドリストと解説)

○ 植物 (  概要 (PDF 281 KB)  ・  レッドリスト (PDF 252 KB) )

○ 哺乳類 (  概要 (PDF 356 KB) ・  レッドリスト (PDF 145 KB) )

○ 繁殖鳥類 (  概要 (PDF 503 KB) ・  レッドリスト (PDF 197 KB)  )

○ 両生類 (  概要 (PDF 484 KB) ・  レッドリスト (PDF 130 KB) )

○ 爬虫類 (  概要 (PDF 265 KB) ・  レッドリスト (PDF 105 KB) )

○ 魚類 (  概要 (PDF 306 KB) ・  レッドリスト (PDF 159 KB) )

○ 昆虫類 (  概要 (PDF 332 KB) ・  レッドリスト (PDF 261 KB) )

○ 陸産貝類 (  概要 (PDF 277 KB) ・  レッドリスト (PDF 101 KB) )

○ 淡水貝類 (  概要 (PDF 257 KB) ・  レッドリスト (PDF 83 KB) )

○ その他の陸生無脊椎動物 (  概要 (PDF 267 KB) ・   レッドリスト (PDF 78 KB) )

※ なお、当ホームページ内の「 甲賀市の自然 インターネット資料室」には、みなくち子どもの森園内や、甲賀市内で記録された動植物のリストを整備し始めています。植物や昆虫など、多数の種類がある分類群は未完成ですが、こちらもご活用ください。